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2026.03.16
イラン情勢悪化による石油化学品への影響は?ガソリン、日用品も値上げ、品薄に
米国とイスラエルがイランを2026年2月28日に攻撃し、ホルムズ海峡が事実上封鎖されるなど、イランを巡る情勢は緊迫化しています。中東地域は、世界有数の石油産出地域であり、この地域の情勢悪化は、世界のエネルギー市場に大きな悪影響を与えます。
なかでもホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間にある海峡で、イラン南部とオマーンの飛び地のムサンダム半島に挟まれています。最も狭い箇所は幅約33kmしかない狭い海峡ですが、産油国がひしめくペルシャ湾とアジア方面につながるインド洋を結ぶ重要な航路で、世界の原油輸送の要衝であり、世界中の原油と天然ガスの20~30%が通る重要な航路です。
この海峡の封鎖は、原油の輸送に直結し原油価格の上昇、品薄をもたらし、日本の私たちの生活にも悪影響をもたらす恐れがあります。
その悪影響は、ガソリンなどの燃料だけに留まりません。実は、原油は燃料としてだけでなく、プラスチックの原料など私たちの身の回りのさまざまな製品の原料になっているからです。
この記事では、石油化学の観点から、イランの情勢が私たちの生活にどのような影響を与える可能性があるのか詳しく解説します。
目次
ホルムズ海峡の重要性

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間にある海峡で、イラン南部とオマーンの飛び地のムサンダム半島に挟まれています。最も狭い箇所は約33kmしかない狭い海峡です。
ペルシャ湾には、サウジアラビアやイラン、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなど主要な産油国が位置しており、それらの国で産出した原油やガスが、この狭い海峡を通過して世界各国に輸出されています。実に、世界の原油と液化天然ガス(LNG)供給量の20~30%が同海峡を毎日通過していました。
なかでも日本は原油の99.5%を輸入に頼り、そのうち約90%が同海峡を通過しており、同海峡封鎖の影響は計り知れません。
ホルムズ海峡の代替ルートはあるの?

ペルシャ湾沿岸の産油国のうち、サウジアラビアとUAEには、内陸部を経由し、ホルムズ海峡を通過しないパイプラインがあるため、日本の原油輸入の9割が止まるわけではありません。しかし、輸送量には限りがあり、完全な代替輸送は難しいと言えます。
そもそも原油とは何か?ガソリンとの違い

原油とは、油井から採取されたままの石油のことです。炭化水素を主成分として、硫黄や窒素、酸素、金属などさまざまな成分が混ざり合っています。原油を精製することでガソリンや灯油、アスファルトなどが作られます。
ガソリンは原油から作られる原料の一つであり、原油はガソリンや灯油、重油などのおおもとになるものです。
原油の精製は、製油所で分留装置や分解装置で行われます。分留とは、2種類以上の液体を沸点の差を利用して分離することで、原油を分留すると、高沸点のものから順に、LPガス、ナフサ・ガソリン、灯油、軽油、重油、アスファルトなどに分けられます。
この中でナフサはあまり聞いたことがない方も多いかもしれませんが、私たちの生活を支える大変重要な石油製品です。
イラン情勢の悪化による原油価格の上昇

イラン情勢の緊迫化は、ホルムズ海峡という原油の大動脈をタンカーが通れなくなることにより、原油価格の上昇をもたらします。
実際に、原油取引価格の国際的な指標であるアメリカのWTI先物価格は、攻撃前は1バレル=67ドル台でしたが、週明けの3月2日は75ドル台に上昇し、9日には120ドルに迫るなど急騰しました。
ガソリンなど燃料価格の上昇

原油価格の上昇は、ガソリン価格の上昇に直結します。レギュラーガソリンの全国小売価格は、3月2日時点で1Lあたり158.5円と3週連続値上がりしています。原油先物価格が1バレル=120ドルの水準になると、ガソリン価格は282円になるとの試算もあります。ガソリン価格の上昇は、物流のコストを押し上げるため、あらゆるものの値段を高騰させる要因となります。
また、ピーマンなどの野菜やイチゴなどの果物のハウス栽培、銭湯などの温浴施設では、原油から作られる重油や灯油が燃料として一般的に用いられているため、原油価格の高騰は、野菜や果物の価格、銭湯の経営にも影響を与えます。
さらに、火力発電には、石油由来の燃料を使うものもあるため、電気代が上昇する恐れもあります。
ナフサとは

ナフサとは、ガソリンに似た透明な液体で、石油製品の一つです。原油を精製する際に得られる炭化水素の混合物であり、石油化学産業の最も基本的な原料です。
ナフサを高温の分解炉で熱分解すると、軽い成分から順にエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油化学基礎製品が作られます。これらは加工され、私たちの身の回りにあるプラスチックや合成繊維、合成ゴム、合成洗剤、塗料など、私たちの社会のあらゆる分野で使われています。
エチレンからは、ポリエチレンやポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリスチレンなどのプラスチックになり、フィルムや包装材、各種建材、パイプなどあらゆる分野で広く使われています。
プロピレンからは、ポリプロピレンが作られ、自動車の内外装部品や家電製品、医療器具に使われています。
ブタジエンからは、合成ゴムが作られ、タイヤや防振ゴム、ホースの原料となります。
石油化学工業協会によると、日本はナフサの73.6%を中東からの輸入に頼っています(2024年時点)。ナフサの国内在庫は約20日分しかないため、イランの情勢悪化はこうしたものの値段にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
ナフサの高騰
ナフサも原油価格の高騰を受けて、上昇圧力が顕著になっています。アジアのナフサ指標価格は3月11日時点で、1トン856ドルをつけました。ナフサ価格の高騰が、合成樹脂の値上がりにつながると、プラスチックを使うあらゆる業界のコストに波及します。
エチレンの国内生産減産

原料調達が不安定になると、価格上昇だけでなく、国内生産そのものにも影響が及びます。
報道によると、日本国内でエチレンを製造する三菱ケミカルは、原料の枯渇により、工場の稼働を停止することを避けるため3月6日から、茨城県にある工場の稼働率を下げたとされています。
石油元売り大手の出光興産も、エチレンの国内生産を停止する可能性があると取引先に通知したとされています。出光は、山口県の徳山事業所と千葉県の千葉事業所にエチレン生産設備を持っています。
また、三井化学も3月10日、千葉県市原市と大阪府高石市のエチレン生産設備で減産を始めたとされています。
エチレンの減産は、数週間以内に各種プラスチックの供給不足と価格高騰を招く恐れがあります。
まとめ
イラン情勢の緊迫化とホルムズ海峡の事実上の封鎖は、遠い中東の出来事のように見えて、実際には日本の暮らしや産業に直結する重大な問題です。原油はガソリンや灯油などの燃料だけでなく、プラスチックや合成繊維、洗剤、包装材、日用品、家電、自動車部品など、私たちの生活を支える多くの製品の原料でもあります。そのため、原油の供給が不安定になれば、物流コストや製造コストの上昇を通じて、さまざまな商品やサービスの価格に影響が及ぶ可能性があります。
特に日本は、エネルギー資源の多くを海外に依存しているため、中東情勢の変化を受けやすい立場にあります。石油化学業界にとっても、原料価格の高騰や調達の不安定化は、生産や供給体制に大きな負担をもたらします。そしてその影響は、最終的に企業活動だけでなく、家計や日常生活にも波及していきます。
今後の動向次第では、燃料価格の上昇にとどまらず、私たちが普段何気なく使っている製品の値上がりや供給遅延が起こる可能性もあります。だからこそ、イラン情勢を単なる国際ニュースとして捉えるのではなく、暮らしを支える資源や製品の流れと結びつけて理解することが大切です。世界の情勢と日常生活は、思っている以上に深くつながっています。
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