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化学規制

2017.05.23

有機溶剤中毒予防規則(有機則)とは?わかりやすく解説

有機溶剤中毒予防規則(有機則)とは?わかりやすく解説

有機溶剤を使う上で、作業者の安全を守るために設けられている法令、有機溶剤中毒予防規則(有機則)を、わかりやすく解説します。

 

 

有機溶剤とは?

有機溶剤とは、他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称で、塗装や洗浄、印刷など幅広い用途で使われています。
工業用分野以外では「溶媒」とも呼ばれます。

有機溶剤は悪臭の原因となる物質や体に悪い物質を含んでいるものもあります。
体内に吸収されると健康を害する恐れがありますが、有機溶剤は揮発性が高いものが多く、気体として排出されると、呼吸を通してだけでなく皮膚からも体内に吸収されてしまいます。
そのため、作業者の安全を守るための基準として有機溶剤中毒予防規則が設けられています。

有機溶剤については下記の別記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。

有機溶剤とは

 

有機溶剤中毒予防規則(有機則)とは?

有機溶剤中毒予防規則とは、労働者の安全と健康を守るための法律である労働安全衛生法に基づき、有機溶剤の安全基準を定めた厚生労働省令です。

有機則では、指定した有機溶剤を毒性が強いものから順に、第1種、第2種、第3種に区分しています。

有機溶剤の種類と区分

有機則該当有機溶剤の毒性の図

有機溶剤予防規則対象の有機溶剤は以下の45種です。

 

区分 該当する物質の数 物質名
第1種有機溶剤 2種類

1,2-ジクロルエチレン(二塩化アセチレン)

二硫化炭素

第2種有機溶剤 36種類

アセトン

イソブチルアルコール

イソプロピルアルコール

イソペンチルアルコール(イソアミルアルコール)

エチルエーテル

エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)

エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)

エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)

エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)

オルト-ジクロルベンゼン

キシレン

クレゾール

クロルベンゼン

酢酸イソブチル

酢酸イソプロピル

酢酸イソペンチル(酢酸イソアミル)

酢酸エチル

酢酸ノルマル-ブチル

酢酸ノルマル-プロピル

酢酸ノルマル-ペンチル(酢酸ノルマル-アミル)

酢酸メチル

シクロヘキサノール

シクロヘキサノン

N,N-ジメチルホルムアミド

テトラヒドロフラン

1,1,1-トリクロルエタン

トルエン

ノルマルヘキサン

1-ブタノール

2-ブタノール

メタノール

メチルエチルケトン

メチルシクロヘキサノール

メチルシクロヘキサノン

メチル-ノルマル-ブチルケトン

第3種有機溶剤 7種類

ガソリン

コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む)

石油エーテル

石油ナフサ

石油ベンジン

テレビン油

ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット及びミネラルターペンを含む)

 

有機則の対象物質は現在45種ですが、以前は54種ありました。クロロホルムなどの発がん性がある物質が有機則から特定化学物質障害予防規則に移行したためです。

 

対象環境

 

上記の物質45種を、下記の条件で使うと、使用上の義務が生じます。義務の内容は後述します。

有機溶剤業務の基準

有機則の対象となる有機溶剤業務とは、有機溶剤そのものや、染料、医薬品などの製造過程での有機溶剤などのろ過や混合、加熱、容器や設備への有機溶剤の注入の業務。
有機溶剤を含む薬剤を使う、印刷や文字の書き込み、描画の業務、つや出し、接着、洗浄。有機溶剤などを入れたことがあるタンクの中での作業などです。詳しくは下記の通りです。

有機溶剤業務 次の各号に掲げる業務をいう。

イ 有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌かくはん、加熱又は容器若しくは設備への注入の業務
ロ 染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、甘味料、火薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこ          
れらのものの中間体を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌かくはん又は加熱の業務
ハ 有機溶剤含有物を用いて行う印刷の業務
ニ 有機溶剤含有物を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
ホ 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
ヘ 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
ト 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
チ 有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しよくの業務
リ 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
ヌ 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
ル 有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務
ヲ 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務

参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000036_20200828_502M60000100154

屋内作業場の基準

令第六条第二十二号及び第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。

  • 一 船舶の内部
    二 車両の内部
    三 タンクの内部
    四 ピツトの内部
    五 坑の内部
    六 ずい道の内部
    七 暗きよ又はマンホールの内部
    八 箱桁の内部
    九 ダクトの内部
    十 水管の内部
    十一 屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所

参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000036_20200828_502M60000100154

 

※有機則の対象外※

有機則に該当する物質を対象業務・場所内で使う場合でも、使用量が基準を下回る場合は、所轄の労働基準監督署に申し出れば、適用外の認定を受けることができます
認定を受けなければ、使用量が少なくても、以下の義務が発します。

※例外対象となる基準は次の通りです。

使用量の基準

使用量の基準は、作業場の気積(床面積と高さの積、空間の量を表す)です。
作業場にある設備などの体積を除いた空間の大きさです。
下記の表で、有機溶剤の許容消費量が分かります。

消費する有機溶剤等の区分 有機溶剤等の許容消費量
第一種有機溶剤等 W=(1÷15)×A
第二種有機溶剤等 W=(2÷5)×A
第三種有機溶剤等 W=(3÷2)×A
備考 この表において、W及びAは、それぞれ次の数値を表わすものとする。
W 有機溶剤等の許容消費量(単位 グラム)
A 作業場の気積(床面から四メートルを超える高さにある空間を除く。単位 立方メートル)ただし、気積が百五十立方メートルを超える場合は、百五十立方メートルとする。

参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000036_20200828_502M60000100154

 

有機則該当溶剤使用上の義務

有機則指定の物質を使用する場合、上記の例外に当てはまらなかった、当てはまっても申請しなかった場合、従業員への有害性の周知と有機溶剤作業主任者の選任、換気装置の設置、作業環境の測定をする必要があります。

従業員へ有害性の周知

有機則に該当する有機溶剤を使用する際は、区分の表示使用上の注意事項、その有機溶剤を使うと、どのような懸念事項が人体におこるのか中毒などが起きた際の応急措置方法を見やすい場所に掲示しなくてはいけません。

有機溶剤作業主任者の選任

屋内の作業場で有機溶剤を使った仕事をする際は(試験研究業務を除く)、作業の主任者を選任しなければなりません。
主任者の仕事は以下の通りです。

  • 作業の方法を決定し、労働者を指揮すること
  • 換気装置を1カ月以内ごとに点検すること (換気装置の種類については下記)
  • 保護具の使用状況を監視すること
  • タンク内作業における措置が講じられているか確認すること

主任者になるにはは、有機溶剤作業主任者機能講習(2日間)を受け、合格する必要があります。
更新する必要はありません。

換気装置の設置

使用する有機溶剤に合った換気装置を設置する必要があります。
(どの装置も毎月作業主任者が点検をし、装置によっては1年に1度の定期検査と、その結果を3年間保存させることが必要)

局所排気装置

発散源の近くにフードを設置し、空気を局所的に吸い込み、ダクトを経由し排気ファンから外部に排出します。吸引力によっては気流が合わずに、作業に影響を及ぼす恐れもありますが、低コストで運用できます。

プッシュプル型換気装置

一様な補足気流を発生させ、揮発性物質の蒸気をかき混ぜることなく、発散源からフードへ誘導してくれます。密閉式と開放式の2タイプがあります。局所排気装置よりも風速を抑えることができ、作業への影響が少ないことが特徴です。一方で設備が大がかりのため設備費、運用費がかかります。

全体換気装置(+呼吸用保護具)

外気を吸気口から作業場に入れ、場内の揮発性物質の蒸気を希釈しながら排気口から外部に排出する装置です。
※第3種有機溶剤をタンク等の内部での作業に使用する場合のみ(吹き付け作業で使用する場合を除く)

保管と廃棄について

保管する際は、漏れたりこぼれたりしないような、栓がしっかりできる丈夫な容器に入れます。さらに施錠できる、風通しの良い所で保管します。
使い終わった空の容器も、内部に残った溶剤が揮発して発散しないよう密閉したり、所定の集積所に集めなければなりません。

作業環境の測定

第1種有機溶剤・第2種有機溶剤を使う屋内作業場では、
最低6か月に1回定期的に作業環境測定士(国家資格)による作業環境測定を実施しなければいけません。
もし社内に作業環境測定士がいない場合は、登録を受けた作業環境測定機関に測定を委託してください。
測定結果に基づいて、迅速に改善しなければならなかったり、改善の努力をしなければならないなどの指示があります。また、その結果・記録は3年間保存しなくてはなりません。

健康診断について

第1種有機溶剤・第2種有機溶剤を使う仕事に常時ついている人は、その業務に就いた際と、その後、
最低6か月ごとに1回、定期的に健康診断を実施しなければなりません。
第3種有機溶剤を使う場合はタンクなどの内部での仕事に限ります。
更に健康診断の結果を本人に通知したうえで、その結果を5年間保存しなくてはいけません。
また、その結果の報告書を労働基準監督署に提出する義務があります。

 

健康診断の必要性を訴える医者たちの図

 


 

以上の義務は毒性が高いとされる有機溶剤を少しでも安全に使うためのものです。
有機則に該当しない程の少量であっても、有機則に該当しない溶剤であっても、しっかりとした保管、しっかりとした換気をするに越したことはないと言えますので覚えておくと便利です。

研究者がチェックするイメージ

 

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