お知らせ・お役立ち便覧 NEWS
身近な有機溶剤 お役立ちコラム
2026.07.31
イラン情勢悪化による石油化学品への影響は?不足するナフサ、ガソリン、日用品も値上げ、品薄に
米国とイスラエルがイランを2026年2月28日に攻撃し、ホルムズ海峡が事実上封鎖されるなど、イランを巡る情勢は緊迫化。6月18日に米国とイランが戦争終結とホルムズ海峡の再開に向けた覚書を交わしたものの、合意は安定せず、7月には双方の攻撃が再燃。7月末現在も戦闘と外交交渉が並行しており、情勢は予断を許しません。
中東地域は、世界有数の石油産出地域であり、この地域の情勢悪化は、世界のエネルギー市場に大きな悪影響を与えます。
なかでもホルムズ海峡は、世界有数のエネルギー輸送の要衝です。平時には、世界の石油消費量の約2割に相当する原油や石油製品が通過しているほか、世界の液化天然ガス(LNG)貿易量の約2割も同海峡を通過しています。
この海峡の封鎖は、原油の輸送に直結し原油価格の上昇、品薄をもたらし、日本の私たちの生活にも悪影響をもたらす恐れがあります。
その悪影響は、ガソリンなどの燃料だけに留まりません。実は、原油は燃料としてだけでなく、プラスチックの原料など私たちの身の回りのさまざまな製品の原料になっているからです。
この記事では、石油化学の観点から、イランの情勢が私たちの生活にどのような影響を与える可能性があるのか詳しく解説します。
ホルムズ海峡の重要性

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間にある海峡で、イラン南部とオマーンの飛び地のムサンダム半島に挟まれています。最も狭い箇所は約33kmしかない狭い海峡です。
ペルシャ湾には、サウジアラビアやイラン、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなど主要な産油国が位置しており、それらの国で産出した原油やガスが、この狭い海峡を通過して世界各国に輸出されています。実に、世界の原油と液化天然ガス(LNG)供給量の20~30%が同海峡を毎日通過していました。
なかでも日本は原油のほぼすべてを海外から輸入しており、2024年度には輸入原油の95.9%を中東地域に依存していました。中東産原油の多くはホルムズ海峡を経由するため、同海峡の通航制限は、日本のエネルギー供給に大きな影響を及ぼします。
ホルムズ海峡の代替ルートはあるの?

ペルシャ湾沿岸の産油国のうち、サウジアラビアとUAEには、内陸部を経由し、ホルムズ海峡を通過しないパイプラインがあるため、日本の原油輸入の9割が止まるわけではありません。しかし、輸送量には限りがあり、完全な代替輸送は難しいと言えます。
日本では、米国や中南米、中央アジア、アフリカなどからの代替調達も進められています。政府は2026年6月時点で、7月の原油調達量について前年平月比で約10割まで回復する見通しを示しました。また、国家備蓄原油の放出や民間備蓄義務量の引き下げも実施されています。
このため、ホルムズ海峡の通航が制限されたからといって、日本の原油輸入が直ちに9割停止するわけではありません。ただし、代替調達には輸送距離の長期化や調達価格の上昇が伴うため、コスト面での影響は残ります。
また、サウジアラビアとイエメンの親イラン組織フーシ派との衝突が続いており、ホルムズ海峡の代替となるバベルマンデブ海峡でも緊張が高まっていることが、原油価格の上昇圧力となっています。
そもそも原油とは何か?ガソリンとの違い

原油とは、油井から採取されたままの石油のことです。炭化水素を主成分として、硫黄や窒素、酸素、金属などさまざまな成分が混ざり合っています。原油を精製することでガソリンや灯油、アスファルトなどが作られます。
ガソリンは原油を精製して得られる石油製品の一つです。原油は、ガソリンや灯油、軽油、重油などのおおもととなります。
原油の精製は、製油所で分留装置や分解装置で行われます。分留とは、2種類以上の液体を沸点の差を利用して分離することで、原油を分留すると、低沸点のものから順に、LPガス、ナフサ・ガソリン、灯油、軽油、重油、アスファルトなどに分けられます。
この中でナフサはあまり聞いたことがない方も多いかもしれませんが、私たちの生活を支える大変重要な石油製品です。
イラン情勢の悪化による原油価格の上昇

イラン情勢の緊迫化は、ホルムズ海峡という原油の大動脈をタンカーが通れなくなることにより、原油価格の上昇をもたらします。
実際に、原油取引価格の国際的な指標であるアメリカのWTI先物価格は、攻撃前の1バレル67ドル台から、3月上旬には一時120ドル近くまで急騰しました。その後、暫定合意や通航回復への期待を受けて下落しましたが、7月には戦闘の再燃を受けて再び上昇しています。
7月末時点では1バレル80ドル台で推移しており、3月の最高値は下回っているものの、攻撃前より高い水準にあります。戦闘と外交交渉の進展によって、原油価格が大きく変動する状況が続いています。
ガソリンなど燃料価格の上昇

原油価格の上昇は、ガソリン価格の上昇に直結します。レギュラーガソリンの全国小売価格は、2026年7月27日時点のレギュラーガソリン全国平均価格は、1リットル170.1円となっています。原油価格の急騰を受け、政府は3月から燃料油の緊急的激変緩和措置を実施し、ガソリン価格を全国平均で170円程度に抑える支援を行っています。
このため、原油価格の上昇がそのまま同じ割合で小売価格に反映されるわけではありませんが、政府の支援額や原油価格、為替相場によっては、今後も家計や物流コストへの影響が続く可能性があります。
また、ピーマンなどの野菜やイチゴなどの果物のハウス栽培、銭湯などの温浴施設では、原油から作られる重油や灯油が燃料として一般的に用いられているため、原油価格の高騰は、野菜や果物の価格、銭湯の経営にも影響を与えます。
さらに、ホルムズ海峡は、原油だけでなく、カタールなどから輸出されるLNGの重要な輸送ルートでもあります。日本の発電ではLNG火力が大きな割合を占めるため、LNGの輸送停滞や国際価格の上昇が続けば、燃料費調整制度などを通じて電気料金に影響する可能性があります。
ナフサとは

ナフサとは、ガソリンに似た透明な液体で、石油製品の一つです。原油を精製する際に得られる炭化水素の混合物であり、石油化学産業の最も基本的な原料です。
ナフサを高温の分解炉で熱分解すると、軽い成分から順にエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油化学基礎製品が作られます。これらは加工され、私たちの身の回りにあるプラスチックや合成繊維、合成ゴム、合成洗剤、塗料など、私たちの社会のあらゆる分野で使われています。
エチレンからは、ポリエチレンやポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリスチレンなどのプラスチックになり、フィルムや包装材、各種建材、パイプなどあらゆる分野で広く使われています。
プロピレンからは、ポリプロピレンが作られ、自動車の内外装部品や家電製品、医療器具に使われています。
ブタジエンからは、合成ゴムが作られ、タイヤや防振ゴム、ホースの原料となります。
石油化学工業協会によると、日本はナフサの73.6%を中東からの輸入に頼っています(2024年時点)。ナフサの国内在庫は約20日分しかないため、イランの情勢悪化はこうしたものの値段にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
ナフサの高騰
ナフサも原油価格の高騰を受けて、上昇圧力が顕著になっています。アジアのナフサ指標価格は3月11日時点で、1トン856ドルをつけました。ナフサ価格の高騰が、合成樹脂の値上がりにつながると、プラスチックを使うあらゆる業界のコストに波及します。
エチレン生産は低水準だが、直ちに供給不足になる状況ではない

2026年6月の国内エチレン生産量は28万9,100トンで、前年同月比19.1%減となりました。稼働プラントの実質稼働率も66.5%に低下しています。ただし、生産減少には、ナフサ調達の不安定化だけでなく、複数の設備で定期修理が集中したことも影響しています。
石油化学工業協会によると、ポリエチレンやポリプロピレンは、6月末時点で国内需要の約3か月分に相当する在庫を維持しています。現時点では直ちに供給困難となる状況ではなく、7月以降も平年並みの供給が見込まれています。
一方で、戦闘や海上輸送の混乱が長期化すれば、ナフサの調達価格や輸送費が再び上昇し、石油化学製品の値上げや一部製品の供給調整につながる可能性は残っています。
まとめ
日本では、代替産地からの調達や石油備蓄の放出、石油化学製品の在庫活用などにより、現時点で燃料やプラスチックが直ちに大規模な供給不足となる状況は避けられています。
一方で、ホルムズ海峡の通航量は平時を大きく下回り、米国とイランの戦闘も収束していません。代替調達には通常より高い輸送費や調達費がかかるため、原油やナフサの価格上昇が、時間差を伴って燃料、合成樹脂、包装材、日用品、自動車部品などの価格に波及する可能性があります。
今後は、戦闘や外交交渉の行方だけでなく、ホルムズ海峡の通航状況、原油・ナフサ価格、国内の石油化学製品の在庫や生産状況を継続的に確認することが重要です。
※この記事は2026年7月31日時点の情報に基づいています。
カテゴリーから探す
キーワードから探す