バイオエコノミーと有機化学

9月21日の化学工業新聞の「精留塔」というコーナー(天声人語の化学工業ver.のようなもの)に次の記事がありました。

 

今回取り上げたいのは、

「▼プラスチック、ゴム、樹脂、添加剤、油脂、界面活性剤、接着剤、塗料、インキなど、有機化学品の大半がスマートセルで生産されるようになると、石油化学がその姿を大きく変えることは必須だ。」

というところです。

 

ちょうど、ハイブリッドや電気自動車の(各国政府指示も含め)本格市場投入で、近未来に現在のガソリンエンジン生産が大幅に減少するので、関係する部品会社が会社の存立をかけて「次の商品を探している」現状と似ています。

 

一般化学品がバイオ技術で作られることによって、既に少しずつ変化が起こり始めています。

 

ナフサについて

石油化学工業では、ナフサと呼ばれる原油を常圧蒸留装置によって、蒸留分離してエチレンプラント原料として使用しています。

これをクラッカー(食べるクラッカーではなく、「砕く」の意)という高温度のナフサ分解炉に通すと、ナフサは激しい化学反応(熱分解反応)を起こします。

 

化学反応というのは、分子がバラバラになったり他とくっついたりいろいろなことが起こる現象ですが、

ナフサのこの化学反応の場合は、主に分子が細かく切れて(分解して)もっと小さな分子になっていきます。

 

小さな分子になったナフサこそが、

後にエチレンやプロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど、石油化学基礎製品と呼ばれる他の石油化学製品になっていく、原料物質なのです。

この原料物質は、できたての時は高い温度の気体で混ざり合っていますが、温度差を作りながら分留して取り出します。

 

エチレンについて

上記の工程を経て製造されるエチレンですが、このエチレンがどれくらい生産できたかが、石油化学工場全体の生産能力を示す尺度になっています。

 

 

価格問題

エチレンはナフサから、ナフサは原油からできているため、その価格は原油価格に由来しています。

原油価格が高止まりしている今、ナフサクラッカーから生み出されるエチレンのコスト削減は非常に困難な状況です。

 

 

そんな中、アメリカがシェール革命を起こします。

シェール革命とは

シェールガス革命、とも呼ばれますが、

今まで技術面やコスト面などの問題から、抽出困難だった地域で、その抽出が可能になることを「シェール革命」と言います。

シェール革命がおこると、世界のエネルギー事情が大きく変わります。

2008年ごろから、アメリカではシェール革命によって天然ガスの供給量が増加し、これに伴ってアメリカでは天然ガスを原料としたエチレンの生産が拡大しています。

将来的にはエチレンの価格低下が予測されています。(2018年11月1日現在、既に価格低下の兆しが見えている)

 

 

安くなって嬉しい! とお思いの方もいらっしゃると思いますが、

シェール革命によって石油化学製品の原料が天然ガスに移行すると起こる問題もあります。

 

例えば、ナフサを原料として生産されていたプロピレンやブタジエン、ベンゼンなどは、エチレンとは違いエタンから直接生産はできません。

そのため、ナフサクラッカーを代替する形でエタンクラッカーが拡大すれば、これらの原料の供給力は低下し、価格高騰が懸念されます。

 

プロピレンやブタジエン、ベンゼンの今の役割

プロピレン: ポリプロピレンに

ブタジエン: 自動車タイヤ用スチレンブタジエンゴムに

ベンゼン : プラスチック原料やスチレンに

 

 

今後、生産プロセスの新規開発が求められていくでしょう。

将来的には、バイオ技術で石油化学基礎製品がつくられると、派生製品が「できる」「できない」の分かれ道に出会い、

「できない」場合には新たな生産方式の開発が必達になりそうです。

 

 

2030年の予測

精留塔様の仰る、OECDの2030年予測はどこで見られるかと探しました。

 

The Bioeconomy to 2030: Designing a Policy Agenda  Published  2009 322 Page

日本語訳名:「2030年までのバイオ経済学:政策アジェンダの設計」

 

多分これだろうと思います。

 

2009年に2015年と2030年を予測して書かれているので、2018年の時点で読むと「当たり」と「外れ」とが既にあります。

ですので、2030年がどこまでの精度で行くのかは12年後に判りますが、毎朝 “遺伝子組み換えをしていない、国産大豆使用の納豆” を食べている身としては、いささか複雑な心境になる内容でした。

理由はGMと書かれた文字が一杯出てくるのですが、意味はバイオ技術の “遺伝子組み換え” でした。

OECD の持続可能な世界で言うバイオ経済は “遺伝子組み換え” 無しでは考えられてはおりません。

国連広報センターの出しているSDGs 持続可能な開発目標17項目中10項目以上はバイオが貢献すべきともされています。

巷で流行りの“TKG たぶんこうだったじゃないか劇場”をやっと覚えたのに、世界を変えるための17の目標、SDGsは難しいですね(4文字も有る)。

 

くどい様ですが、毎朝 “遺伝子組み換えをしていない、国産大豆使用の納豆” を食べている身としては、これらの達成がバイオ技術によるものとMAS【DNAマーカーを用いた選抜Marker Assisted Selection】によるものが有りますが・・。

 

  • GM遺伝子組み換えによる(食肉含む)食料の増産
  • 医療・医薬品の開発。公衆衛生に対する新薬承認の影響の重要な尺度は、既存の治療と比較して病状を治療する有効性として定義される追加の治療価値である。多くのバイオ医薬品は、相当な治療上の価値をもたらしている。多くの例では、ゴーシェ病治療用のイミグルセラーゼ、乳癌治療用のトラスツズマブ(ハーセプチン)、いくつかの種類の貧血治療用のアルファ・ベータ型エリスロポエチンなど。
  • 薬物コストを大幅に削減する可能性があるバイオシミラーと呼ばれるバイオ医薬品製造。
  • 森林保全、木の繁殖に適用され目標は、遺伝的に優れた樹木の遺伝的に同一の実生を繁殖させること。害虫の生殖生存率を低下させ、ミツバチなどの貴重な花粉媒介者が害虫および病気に耐える能力を向上させる。
  • 魚資源の争奪による枯渇から守るDNAフィンガープリンティング(過剰漁獲を同定することによって魚資源を保護するのに役立つ)。

これら無いと、貧困と飢餓から2030年を乗り越えられないと言われると、複雑な気分です。

 

石油化学をバイオ技術が代替してくれるだけなら問題はないのですが、口に入るもの、薬として服用するものまで全てだと言われて、「2030年までのバイオ経済学:政策アジェンダの設計」でOECDが高らかに宣言した以下の部分をどう考えるかによります。(原文は英語です)

 

2030年までに、世界人口は2005年の65億人から83億人に28%増加し、

世界人口の1人あたりの平均収入は2005年の5,900ドルから8,600ドルへ57%増加すると予想されています。

豊かな人口は、食糧、動物飼料、衣類と住宅用の繊維、清潔な水、エネルギーなど、生活の質と寿命を向上させる保健サービスの世界的な需要を増大させるでしょう。

将来の需要を満たすために、天然資源の供給は増加させなくてはならないのです。

 

また穀物の需要に応えるためには、1990年代に観察された「作物収量年間約1%増」というスピードよりもはるかにはやい速度で増加させなければなりません。

しかし、人類がこれらの天然資源を利用する方法は、すでに地球の生態系の持続可能性を圧迫しているのが現状です。

 

ミレニアム生態系評価プロジェクトでは、河川や湖沼、海洋漁業、森林、大気、作物などの人間社会を支える地球上の24の主要な生態系の60%が「劣化している」(MEA,2005)と推定されています。

公表されている研究のレビューでは、魚資源に関して、漁業管理(Worm et al,2006,2007)に大きな変更がない限り、現在利用されている全ての海洋魚資源は、2048年までに世界的崩壊を迎えるだろうという予測がたてられています。

 

気候変動は生態系に悪影響をもたらしますし、それに伴い貧困や公衆衛生問題なども引き起こすでしょう。

解決するには、グローバルガバナンスやイノベーション政策、経済的インセンティブや経済活動のための組織が重要になってきます。

既存の資源を効率的に利用できるよう技術革新をしていかなければなりません。

バイオテクノロジーは、食糧、飼料および繊維生産の供給および環境の持続可能性の改善、水質の改善、再生可能エネルギーの提供、動物および人々の健康の改善や、侵略種を検出することによって生物多様性を維持する助けとなるにちがいありません。

しかし当然ですが、適切な地域的、国家的、場合によっては、その開発と適用を支援するグローバルな政策がなければ、その可能性を満たすことはまずありません。

 

以上。

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