特恵関税(GSP)について

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GSPとは

GSP(Generalized System of Preferences)は、世界貿易機関(WTO)(旧GATT協定)の、より一般的な規則からの免除の正式な制度を提供する特恵関税制度で、

成立経緯はともかく現代のそれを簡単に言うと、発展途上国に対する発展済(衰退途上)国?からの「恵(めぐみ)」です。

 

前回のアンチ・ダンピングをお読み頂いた諸兄は、溶剤のお役立ち便覧に何故、アンチ・ダンピングの解説記事が載るのだと訝(いぶか)しく思われた事と存じます。

書いていた本人も何故だろうと思っていたくらいですから当然の事でしょう。

映画スターウォーズの様に後から出た物語が時代を遡り話を膨らませていく様に、今回の「特恵関税」と合わせてご理解頂けばあなたもスカイウォーカーになれるかも・・。

 

 

税のはなし

その前に、基礎となるの話をします。

Tax はラテン語のTaxo (これを英語に訳すと appraise 鑑定,  lame 責任, censure 非難, condemn非難する, estimate 推定, feel 感じる,  palp パルプ, rate レート, reproach 非難する, touch タッチ, value/values 値, to blame 責任を負う) から来ているそうです。

 

人類の歴史上書物で記録がある時代すでに税に相当する物納が有りました。

お金(金属でも、それ相当品でも同じです)が確立していない社会、日本の卑弥呼の邪馬台国でも、エジプト王朝やペルシャ帝国でも同じです。

 

色々な時代に色々な税が作り出されました。一番愚かと言われたのが、「人頭税」です。ある程度の身長になった人間一人一人について、その人の稼ぐ力/収入を全く考慮せずに一人の人が居れば幾らと言う勘定です。いわゆる空気税で呼吸していたら幾らの発想です。人の数を数えればよいので徴税は簡単ですが、このために間引き含め色々悲劇を生みました。家族が多ければ税金が多いので結果人々は子供を作らないようになり、人口減少が起こり国力減退します。

 

 

本格的に徴税が国庫を潤すのは、エジプト、ペルシャ、インドの各王朝からですが、地中海帝国を作り上げたローマ帝国(Taxo)時代に最高潮になりました。

各地の属州からイタリア本国に送られる税の膨大さがローマ市民の生活を支え、ローマ市内だけでなく、ヨーロッパ・地中海沿岸のアフリカ各国に現代にも残るあの壮大な遺跡群を作りました。

最後は官僚の腐敗による使い道も原因して(西ローマ帝国は)衰退しました。

基本的には各国で一番多い税は、財産に対する税か土地かそこからの収穫に対する税(現代の所得税)です。

 

古代中国でも一定額の財産税と耕作された土地からの収穫の10%は税として徴収されたそうです。

中世英国では、財産税や教会税だけでなく、今から考えれば論理がおかしいのですが、土地を所有していない小作の農民にも賃貸した土地にたいする税が課されました。

 

 

税は、その市民が属する共同体の運営に必要なだけ徴収されるのが理想ですが、実際にはその運命共同体を運営している人々の意思が入ります。

我々が実体験で感じる一番の物は、年度末の道路工事でしょう。

税は、特に戦争と言う国家の非常事態が起こる時に新たな名前の税として増えることがあります。しかも戦争が終わった後にその増えた税が無くなることはありません。

アメリカの独立が宗主国イギリスに対する納税問題から発したのはよくご存じと思いますが、『代表無ければ、課税なし』で代表される納税者意識はいつの時代も必要です。

 

関税とは

関税とは、輸入や輸出時に、国境とよばれる政治的境界を越えた物品の移動に対する料金です。

時として関税は貿易を阻止し、国内産業を保護するために政府によって使用されることがありこれが高関税率課税と呼ばれるものです。

関税収入の一部は、通常日本で言うなら海上保安庁、アメリカなら沿岸警備隊や国境警備を維持するために使われています。

関税を回避する古典的な方法は密輸または商品の価値を過小申告するアンダー・ヴァリューがあります。

 

 

元に戻って、関税は字のとおり関所を通る税金です。

箱根の山は天下の嶮~♫の歌(瀧廉太郎作、箱根八里)に出てくる函谷関(中国河南省にあった関所)は、この関より西を関中といい、中原から入る上での交通の要衝にあり、歴史上多くの戦いが行われた)そうです。

万里の長城が海に入って行く山海関は華北と東北(昔で言う、満州)の境界で、明代は山海関より西側を「関内」と称し、東側の満洲を「関東」もしくは「関外」と言いました。満州に駐留した関東軍の名称もこれに由来します。

 

つまり関所を通る際の通行税、価値がありそうな物品にたいする物品税が関税です。

土地の豪族、野盗、腕っぷしの強そうな人々がその場所を通過する人々から取り立てます。

大体が橋や峠などそこを通ってでしか先に行けない所に作ります。

わが国でも現在の松阪市から伊勢神宮までの50kmの区間に関所がそれぞれの地主・豪族の思惑でいっぱい作られ合計100文以上(片道で)取られたと言う記録が有るそうです。

 

 

我々の言う税関の事を中国ではその名の通り『海関』と言います、つまり海の関所。

我こそは世界の中心と言う“中華”思想の国は劣っている国からの捧げものを受けとる朝貢外交の発想で、いわゆる鎖国状態でしたが、密輸など横行した結果、清代についには鎖国を廃止した結果『海関』が作られました。

 

関税も昔は誰かの意思の表れで現代の相互主義とは相いれませんが、ブロック経済とよばれる、仲間内だけは関税が安いとか(イギリス連邦特恵制度)、イスラム教以外の宗教を信仰する人々からは税を聴取するジジヤ(征服された非イスラム教徒に対する徴税税)等がありました。

 

現代ではWTOのおかげで、特別に認められた状況下以外無茶な関税は有りません。

数%がほとんどです。しかし、その数%でも買い手にとっては原価の押し上げとなり、有ると無いとでは大騒ぎです。特恵関税により関税が0%だったものが、その輸出国がGDP対の条件をクリアーしたと判断されると0%が数%に変わります。これが特恵関税卒業です。

 

 

詳しくは以下の通り・・・

先進国並みに経済が発展した特恵受益国(又は地域)や、高い国際競争力を有する特恵受益国(又は地域)の原産品については、特恵関税の適用対象から除外されます。
平成30年度以降、部分卒業・全面卒業の基準が以下のとおり変更となります。
(部分卒業は平成30年度、全面卒業は平成31年度より実施)

1.部分適用除外措置(部分卒業)

我が国が特恵関税を供与している国(又は地域)のうち、(1)の基準を満たす国(又は地域)について、その国(又は地域)を原産地とする(2)の基準を満たす品目については、国際競争力のある品目と認め、特恵関税適用の対象から除外されます。

 

(1)国又は地域の基準

その年度の初日を含む年の前年に国際復興開発銀行が公表する統計(以下「世銀統計」という。)において、①「高所得国」に該当又は②「高中所得国」に該当し、かつ、全世界の総輸出額に占める当該国の輸出額の割合が1%以上を満たした国(又は地域)

 

(2)品目の基準

その年度の前々年の貿易統計(例えば、平成30年度の場合は、平成28暦年の貿易統計)において、(1)の国(又は地域)の原産品の輸入額が10億円を超え、かつ、その品目の総輸入額の25%を超える品目

 

この部分卒業となった国(又は地域)の品目については毎年度見直すこととし、基準を満たさなくなった場合には、再び特恵関税の適用を受けることとなります。

 

2.全面適用除外措置(全面卒業)

我が国が特恵関税を供与している国(又は地域)のうち、その年度の前年までの3か年の世銀統計において、連続して①「高所得国」に該当又は②「高中所得国」に該当し、かつ、全世界の総輸出額に占める当該国の輸出額の割合が1%以上を満たした国(又は地域)については、その国(又は地域)への特恵関税の供与は行われない(すべての品目に対して特恵関税適用の対象から除外する)こととなります。

全面卒業となった国(又は地域)が、その後に3か年の世銀統計において、連続して「高所得国」に分類されなくなった場合で、かつ、その国(又は地域)より希望があった場合には、その年の翌年度よりその国(又は地域)に対して再び特恵関税が供与されます。

この度平成30年度に、中国、タイ、メキシコ、マレーシア、ブラジルが特恵の対象から除外(卒業)されました。我が社にとってのインパクトは現在日本で流通している化成品・化成品材料の多くが中国製であると言う事実が業界のみならず、消費者の皆様にも価格押上げの結果をご負担いただくことになると言う事です。

 

卒業と自分から言うと現代ではAKB的ですが、卒業させると言うと上から目線な感が否めません。卒業させられる国々がその成長過程で国内産業保護の立場から繰り出すのがアンチ・ダンピング(AD)訴訟(調査)です。輸入関税率の高額変更や新規導入と言う手もあります。

中国ではありませんが、東南アジアのある国では、そこの国の会社が有る大きさの産業機械が我が社でも出来ますとカタログに載せた時点で、実際の機械はまだ出来ていないし、実使用に耐えらえるかの実証の無いままでも、日本からの同等機械の関税がそれまで(その国では生産できないので)関税ゼロから10%前後の関税になったそうです。

 

順位 国名 AD 調査開始案件総数(1995~2014)

1 インド 740 件

2 アメリカ 527 件

3 EU 468 件

4 ブラジル 369 件

5 アルゼンチン 316 件

6 オーストラリア 289 件

7 南アフリカ 229 件

8 中国 218 件

(WTO「Anti-dumping Initiations」01/01/1995 – 31/12/2014 より)

もっとも、その案件数の推移を見ると、中国が WTO に加盟した 2001 年の翌年(2002 年)にピークを迎えた後、現在は、10 件前後で推移しています。

 

次に、中国による AD 調査の対象国を見ると、日本は、アメリカに次いで案件総数が多く、中国からの AD 調査を受けやすいことがわかります。

 

順位 国名 中国によるAD調査対象案件総数( 1995~2014)

1 アメリカ 40 件

2 日本 38 件

3 韓国 32 件

4 EU 24 件

5 台湾 16 件

6 ロシア 11 件

7 インド 7 件

7 シンガポール 7 件

(WTO「Anti-dumping Initiations」01/01/1995 – 31/12/2014 より)

 

中国におけるこれまでの AD 案件では、100%を上回る AD 税が賦課されることも珍しくありません。また、AD 調査の対象となり、応訴する場合、短期間で、多岐に亘る質問に対する回答及び関連資料を中国語で準備する必要があり、中国の AD 調査が日本企業に与えるインパクトは大きいといえます。

 

何度も述べましたが、関税やアンチ・ダンピング課税は、受益者と損益者が複雑に絡んでいるので一概にどうするのが一番良いか答えは有りません。納税者としては特恵関税が廃止されて新たに課税され徴税額が増えた分、お国に有効に使ってほしいと願うばかりです。

 

 

 

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