塗料の歴史③

漆について

昔(お湯の出る湯沸かし器がなかった当時)は、お正月が終わるとおせち料理をつめていた漆塗りのお重を水で洗って、水気を切ったら湿気と指紋を拭い、麻の袋などに入れ、段ボールの箱に入れて仕舞いました。(現在は熱すぎなければぬるま湯で洗っても構わないと言われています)

このお重をしまう様子は連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のモデルになった大橋さんが著作の「すてきな貴方に」にも描かれています。この作品の中では、長年使い何度も洗われて柔らかくなった日本手ぬぐいの布巾を使っています。

 

腰の抜けた綿布も麻の布も段ボールの箱も適度な湿度環境を保つのに最適なのです。また、箱には埃を防ぐだけでなく、紫外線に弱い漆塗の弱点をカバーする目的もあります。

本来漆塗は、毎日使うたびに磨くように水分を取り去るのが一番良いのですが、重箱は毎日使いませんので箱入り娘になるわけです。

 

上水道水には、殺菌のためのカルキ(塩化石灰)が入っているので、乾いた際、表面にカルキが白く残らないようにしっかり水分を拭き取ることが必要です。特に漆器が黒色ですとカルキ残りの白は目立ってしまいます。

 

 

 

漆の歴史

日本の塗料の歴史をインターネットで調べると

「日本の塗料は、旧石器時代の漆(うるし)塗りから始まる 木の蔓で編んだ籠に漆を塗った容器があり、アスファルトが下塗り剤として使われた。」

と言う記述が多く見つかります。

 

もともと漆は、狩猟用具や戦士用具の製作時に接着剤として使われていたものでした。

しかしのちに、表面を塗装すると耐久性が向上する(熱気や湿気、温度変化、酸やアルカリ、虫にも強い)という漆の特性が見いだされます。

 

日本で初めての塗料は漆ですが、漆も塗料として使われるのは日本が初めてだったようです。

そのため、英語で陶器を「china」というように、漆は「japan」(国は1文字目が大文字ですが、漆は全て小文字)、漆器は「japanware」と呼ばれています。

 

 

 

漆の語源

漆の語源は、「ウルワシ(麗し)」(美しく、心地よく)、「ウルオス(潤す)」(湿っぽく豪華なもの)に由来すると考えられています。

 

 

 

漆に関する遺跡

漆器が出土した遺跡を一部紹介いたします。

垣ノ島遺跡(かきのしまいせき)

北海道の函館市南茅部にあるこの遺跡は、日本の漆の歴史を塗り替える発掘をしたことで有名です。

ここから出土した漆の装飾品6点が、アメリカでの放射性炭素年代測定によって、おおよそ紀元前9000年の縄文時代早期前半のものであると確認されたのです。

それによって、それまで最古だとされていた中国の漆器は紀元前7500年頃のものだった為、日本の漆文化の方が早期に始まったのではないかということが分かったのです。

 

 

鳥浜貝塚(とりはまかいづか)

福井県三方町若狭にある鳥浜貝塚では、縄文時代の「赤色漆塗り櫛」が発見されました。

9本歯の短い飾り櫛で、ヤブツバキの1枚板で作られています。

縄文時代のものとは思えないほどの高等な塗装技術で、専門家たちに衝撃を与えました。

報告書には「取り上げた瞬間は真紅の櫛だったものが、5000年後の空気に触れたとたん、手の中でみるみる黒ずんだ赤色に変色していった。」とあり、保存状態の良さが分かります。

この貝塚では他にも土器や木製の皿なども見つかっているが、どの漆器も、当時の技術の高さが偲ばれるものでした。

http://hisbot.jp/journalfiles/2102/2102_067-071.pdf

 

 

漆の技術的なお話

もともと漆は樹液です。

採取したばかりの時は乳白色ですが、すぐに酸素に触れて茶色になります。

この状態を生漆きうるしといいます。

この生漆を精製して「透き漆」を作り、それに色の粉を混ぜて「色漆」(赤漆や黒漆)を作ります。

赤色の漆のことは、そのまま「あかうるし」と呼ぶこともあれば「丹漆」たんしつと呼ぶこともあり、

この赤色の顔料は、「宝石の国」という最近流行りの漫画の中でも登場した「辰砂」しんしゃ(硫化第二水銀)などの鉱物質を粉砕したもので作ります。

 

丹とは、本来は水銀の原料であるところの朱砂のことで、福井県丹生郡(にゅうぐん)は「丹」=「朱」の鉱石が取れるところで、かって「丹生」には「朱砂(辰砂)が生産されるところ」という意味があり、他全国各地に「丹生」という地名や神社、川の名前が明治以降幾度かの合併・吸収を経た現在でも幾つか残っています。

 

現代の塗料は、樹脂顔料溶剤で基本的に構成されていますが、漆はそれらの塗料とは構成も、固まり方も違います。

現代の塗料は、塗り伸ばしやすいように溶剤で薄められていて、固まる時は、先に溶剤が揮発後、樹脂が固まります。これは古代よりある瀝青質れきせいしつのアスファルト等でも同じです。

 

漆の場合は違います。

漆の主成分である「ウルシオール」が、同じ漆の液の中に生きている酵素「ラッカーゼ」の働きによって、空気中の水分から酸素を取り込み重合します。

これによって、漆の硬化が起きるのです。

24℃~28℃くらいの温度で、70%~85%くらいの湿度が、漆の乾燥に最適だと言われています。

 

 

漆の木の生息域は東アジアから南アジアで、その生息域にしたがって漆器も生産されています。

ヨーロッパでは、東洋から輸入された漆器の美しさと耐久性の高さに、自分たちも生産しようとワニスやシェラックなどの新しい技法を編み出しました。

ワニスとは

天然樹脂あるいは人造樹脂を、油性溶剤ないし揮発性溶剤に溶解させた塗料のこと。

シェラックとは

ラックカイガラムシの体を覆っている分泌物を精製して得られる動物性の天然樹脂のこと。熱硬化性で電気絶縁性に優れ、電気絶縁用被膜・シェラックワニスの原料に

もなっている。雄はアブラムシに似ている。ボダイジュに寄生する。

 

これらの技法は、中世錬金術から純粋な化学へ移行する過程の中で、

他絵画塗料の開発と同時並行して各地で発達していったと思われます。

 

 

それでもなお、ピアノの鏡面仕上げについては、ワニスで塗ってしまうと、圧倒的に呂色仕上とはクオリティーが足りなかったため、

新たに「ポリエステル樹脂塗料」が開発され、それによる鏡面仕上げ法が作られました。

 

呂色仕上とは

素地きじに漆を塗って炭で磨き、更に「油砥粉」あぶらとのこで磨いた仕上げ法で、表面は鏡のようにツルツルで顔が映るのが特徴。

 

 

【番外編】カシュー塗料について

ウルシ科のカシューナッツの殻を材料として作られた

日本の「カシュー株式会社」が1948年に発明し、特許を取得した漆系合成樹脂塗料が、油性漆系塗料のカシュー塗料です。

カシュー塗料は、実を保護するカシューナッツの殻の液を蒸留精製して得られる「カルダノール」という成分を主原料としています。

この塗料は、スプレー塗装が可能で、常温で乾燥が出来るので量産にも対応できるという特徴があります。

ただ、カシュー塗料は食品衛生法をクリアしていないので、食器には使えないという弱点もあります。

食品衛生法について

食器に塗っているウレタンなどの合成樹脂に、有害物質(カドミウム、鉛)を含有していないこと、または食器使用時に塗膜から出る溶出物が国の定める基準以下であることの検査。

<検査方法>

溶出物検査:一定面積に対して決められた一定の試験溶剤を浸して、食器の場合95℃で30分間(60℃の場合もあり)に出る溶出物の検査

材質検査:けい光X線での元素分析

 

 

 

 

 

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