飛行機の塗料について

飛行機塗装と塗料の歴史

昔は布にワニス

布にワニスと聞くとビックリしてしまうかもしれませんが、

歴史的事実、ライト兄弟がキティホークで自作のライトフライヤー号で飛んだ頃のお話です。

当時の飛行機では、最高時速は約50km/h程でした。

布で翼が作られていた当時は下記の目的で「ドープ塗料」が塗られていました。

●素材の木綿や麻が縮まないようにするため

●耐水性を上げるため

●布の毛羽立による空気抵抗を抑えるため

「ドープ塗料」とは一種のワニスで、布や木材、紙などを強化するために使われます。

一般的な塗料と異なり、素材に浸み込み、素材から強靭にしてくれる上、軽く、当時の飛行機には重宝されました。

硝化綿ドープCABドープがあり、硝化綿は、ニトロセルロース (nitrocellulose) と言い換えた方が馴染みがあると思います。

今でも、米国では飛行機塗料でDopeと言う名の塗料が売られています。

 

車と言い、飛行機と言いとにかく昔はワニスを塗っていたのです。これが原因で燃え易かったという弱みもあります。

合わせて読みたい!

自動車の塗料について ~自動車塗装の過去~

 

それが1914~1918年の第一次世界大戦に入ると大きく変わります。

当初飛行機は偵察が主な仕事でしたが、その飛行機から爆弾を投下した瞬間から別物になりました。

武器も装備され、それまで木や布で作られていた機体が金属製になり、速度も飛躍的に速くなります。

 

 

 

 

 

車とスタートが同じなら、経過も良く似ている

その後、機体素材はジュラルミンやアルミニュウム合金、近頃は樹脂複合素材と変わってきましたが、対する塗料も車同様に進化してきました。

アルミニュウム合金には、ニトロセルロースラッカーやフタル酸アルキドエナメル、アクリルニトリルセルロースラッカーが塗布されました。

現在では、エポキシのプライマーにウレタンやフッ素のトップコートが塗られています。

複合素材の塗装系は大変複雑な構造を持ち、これまでの4層から構造の異なる5層になりました。

 

目的は(これも車同様)保護と美観

「美観よりも経済優先だ!」と、会社のマークとラインしか塗装がされていない機体もありました。(最近は全面塗装されている)

この時は、塗装がされていない面に「ポリッシュド・スキン (polished skin)」と呼ばれる処理が施されていました。

これは、金属の地肌アルミクラッド材をポリッシュド・コンパウンドという研磨剤で磨き、アルミクラッド材表面に形成される酸化皮膜を利用して、機体の腐食防止と光沢を維持する手法です。

この「ポリッシュド・スキン」は、美観よりもコスト重視のカーゴ(貨物機)には多く用いられています。

大西洋を無着陸横断の前例がなかった時代、ハムサンドイッチを5つ携えてパリに飛び立ち、この無着陸横断を初めて達成したリンドバーグのスピリットオブセントルイス号も、翼や機体後部は布製でしたが、機体前部の金属部分はこのポリッシュド・スキンだったと言われています。

また、B29もポリッシュド・スキンでした。ステルス性が求められなかった時代の産物です。

 

 

現代の飛行機塗装と塗料

航空機塗料の必要7条件

航空機に塗られる塗料の条件です。最低下記の条件を満たしていないといけません。航空機塗料のイメージ

 

①常温で硬化する

②機体のたわみを吸収/追従する

③極低温から高音までの耐衝撃性

④油圧機器の難燃性作動油への耐油性

⑤大気流接触に耐えるエロージョン性

⑥耐腐食のコロージョン性

⑦高レベル耐候性

 

これらを満たしているかをいろいろな試験で確かめています。

この高性能塗料を横展開して、風力発電のプロぺラにも使用しているそうです。

 

航空機塗料の規格

現代の航空機の塗料は、各飛行機の製造メーカーがそれぞれ独自の塗料規格をもっており、ほとんどメーカーの数だけ規格があります。

ただ、基準値は違えど、どこのメーカーも共通している部分もあります。たとえば下記のような項目があります。

  • 臭気・毒性
  • 梱包状態
  • 不揮発分
  • 1ガロン当たりの重量
  • 粒度
  • 混合粘度
  • スプレー性

など、他にも光沢や、耐テープ性、耐低温ショック性、剥離性などの項目もあるようです。

液体の量の基準がガロンだったり、温度の単位がFだったりするところは、まさしくアメリカ流といったところでしょうか。

 

VOC対応の波はここにも

最近では環境対応型トップコートや、環境対応型プライマーコートなども活躍しています。

VOC対応で、ハイソリッド(揮発成分が少ない)でありながら、耐候性耐久性に優れ、塗り替えの間隔を伸ばし、剥離塗膜の廃棄量も削減できるようにしたり、

従来のプライマーと同じ密着性・防錆性で、かつ塗膜重量も据え置き、それでいて溶剤含有量はしっかりと押さえた塗料が登場しているのです。

アメリカで作られる飛行機の塗料は、カリフォルニア州の規制R1124に基づきVOC含有量を制限していますが、

最近では各国の飛行機が、この規制に合格する塗料を使うことが多いようです。

 

 

 

塗替えについて

時期と工期

塗替えのサイクルは、従来型の場合には約5年ごとでしたが、高耐候性塗料(フッ素)の場合10年ごとが目安です。

工期は通常約10日間。

戦闘機の場合は数年ごとに上塗りを重ね、約10年位で本格再塗装がされます。

 

工程について

 

ドックイン
マスキング
旧塗装剥離
水洗い
コロージョン除去、シーリング
表面処理
マスキング
プライマー塗装
トップコート塗装、その他
マスキング塗装、仕上げ
検査

 

 

コラム

パンダもポケモンもフィルムでなく塗膜

特別な絵柄の飛行機を数年前からよく見かけるようになりました。

ラッピングバスのように、フィルムを貼っているのではないかと思っている人も多いようですが、それは違います。

スペシャルペイントと呼ばれる塗装、つまりすべて塗料で描かれています。

話題造りですから少し塗装に費用が掛かっても、親子2世代や祖父母を含めた3世代での利用、飛行機や描かれているもののファンの利用が期待できます。

 

電波吸収塗料、ステルス戦闘機

ステルス戦闘機塗料のイメージ

マイクロ波3GHz~30GHzを導電・誘電性、磁性で吸収する塗料です。

詳細は開示されていませんが、こういった塗料も現場で活躍しています。

 

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